大石議員賛成討論概要(07年12月27日)


私はただいま議題となりました議発第2号「高知県立総合看護専門学校の設置及び管理に関する条例の一部を改正する等の条例の一部を改正する条例」議案について、これを否決した文化厚生委員長報告に反対、原案に賛成の立場から討論を行います。

 この条例は、開会日に県民クラブ坂本議員が提案理由説明をした通り、平成17年12月議会で総合看護専門学校の廃止のための条例が決定されて以降、お産を取り巻く情勢や、廃止決定の際の前提が大きく変化している中で、県内における助産師の安定的な養成、及び確保を図るため、高知県立総合看護専門学校の助産学科の廃止を、平成27年度末まで延期しようとするものであります。

 この条例案が提出された背景には、提案理由の中にございましたが、今後予想をされます、県内の助産師不足がございます。そもそも助産師とは、女性の妊娠出産産褥(さんじょく)の各時期において、必要な監督、ケアおよび助言を行い、自分自身の責任において分娩介助をし、新生児及び乳児のケアを行うことができる、資格を持たれた方のことでございます。また助産師は女性のためだけでなく、家族及び地域社会の中にあっても、健康カウンセリングと教育に重要な役割を担っており、その活動には産前教育と、親になるための準備が含まれ、さらに婦人科の一部の領域、家族計画及び育児にまで及んでおります。つまり、「いのち」というものが誕生する、生まれるにあたって関係する、全ての事象と密接に関わっているのが「助産師」でございます。単なる一職業の枠を超え、人間のはじまりを見つめ、支援する非常に重要な職業であるといえます。古くは江戸時代、特例として大名行列を横切ることが出来た、唯一の職業でもあり、社会的にも非常に重要視されてきたことがわかります。

 そういった非常に重要な職業である助産師確保の必要性については、みなさんの一致するところだと思いますが、養成・定着確保の見通しと、方法論に違いがあろうかと思いますので、文化厚生委員会における論点なども踏まえて、何点かに渡って思うところを述べさせて頂きたいと思います。

 まず、養成の観点から述べさせていただきます。
 現在の執行部案では、廃止予定の総合看護専門学校にかわって、女子大及び高知大学でその養成を引き継ぐ、という計画のようでございますが、これについて二点、疑問がございます。

 一点目は、その計画自体がまだまだ不透明、不確実なことでございます。
  養成開始についての計画自体が、女子大、高知大学ともに具体的な時期も含めて、策定しているわけではなく、未だ「計画・要請段階」ということでございます。定数の引継ぎも含めての交渉はまだまだこれからであり、廃止後の要請計画について、充分な担保が取れているとは言い難い状況でございます。政治の一つの要素は、いかに将来的に起こりうるリスクに対して、これを回避する行動をとるか、ということもございますので、そのことを鑑みると、このような不確実・不確定な計画を元に、将来図を描くことはできないと考えます。

 二点目は、助産師養成における助産教育についてでございます。
 執行部の説明では、大学教育が全国の流れと言われていますが、4年間の学部教育の中での助産教育は、これまでの1年間の専門課程教育と比べ、教育内容が圧縮され、実習期間やその経験内容も不十分であるなど、すでに様々な問題が指摘されています。さらに、看護師の資格取得者が、助産師資格の取得のために学ぶ場が奪われることや、大学教育の中で助産師の資格を得ても、不十分な教育により自信が持てないなどの理由で、助産師として就職しない学生の率が高いことなど、社会に貢献できる人材を効果的に養成する最適な方法とはいえません。このような反省をふまえた新たな流れとして、全国的には、近年、大学専攻科や専門職大学院など、看護師免許取得後の、1年から2年間の教育課程が設立され始め、すでに、教育方法の転換が始まっています。その意味では、これから目指そうとしている高知県の助産教育は、社会的な流れを適正に見定めているか、疑念がございます。
 また本年2月定例会においては、「高知女子大学看護学部に、専攻科または大学院など、1年以上の独立した助産師養成課程を開設すること。」という請願を、全会一致で採択しており、女子大における、4年間のみでの助産師養成が、本県に求められている最良の方策ではないことも、県議会共通の認識かと思います。
 次に、「助産師の定着」という観点から述べさせていただきます。 
 つまり、執行部の説明するこの定数が養成されたとしても、高知県にどれだけの助産師が定着するか、ということでございます。これも女子大看護学科の県内医療機関に限っての就職状況、4大卒助産師の助産師としての全国平均就職率を換算し、女子大定数を見通した場合は、定数8人の場合でも定着数は最大2人程度に過ぎず、高知大についてはその見通しすら触れられてもおりません。このような不確実な見通しの元での判断は、非常に厳しいものであると言わざるをえません。

 次に、当条例案に対する、執行部の反論二点について反駁させていただきます。
 一点目は分娩実習の受け入れについてでございます。
 執行部としては、分娩実習の受け入れ医療機関において、実習に適した分娩は限られており、妊婦の同意も必要であるとの困難性を主張されておりますが、坂本議員の聞き取り調査によると、「調整して依頼されれば、可能な協力は惜しむものではない」との現場の声もございます。言われる受け入れ医療機関とのあいだにおいて、実習ができる期間や時間帯の工夫、調整を行うなどの主体的な努力がなされているのか疑問を抱かざるをえません。

 二点目は、費用対効果についてでございます。
  執行部は助産学科の単独運営経費を6500万円、と説明されてきましたが、これも女子大の一人あたり715万円と比較しても、総看では一人あたり433万円となり、単なるコスト論で比較すべきでないことも、あきらかになっております。

 次に、執行部が提案してきた今後の対策について二点、述べさせていただきます。
 一点目は、養成空白期間を埋めるための、奨学金の拡充についてでございます。
 執行部は、養成空白期間を埋めるために、県内で就業することを償還免除の条件とした助産師奨学金制度を拡充し、県外の助産師養成所で一年間学ぶにあたって、学費と生活費でおよそ240万円を支援することを検討されているようでございます。更にその金額の前提として、医師の上限276万円を超えるものではない、としていますが、他の奨学金制度と比較しても破格なものであり、制度化についての理解が求められるのか。また、それ以上に他県において厳しい助産師専門学校への入学が可能なのか、様々な疑念がございます。

 二点目は、助産師確保のため潜在助産師を現場につなげる、という施策についてでございます。
 潜在助産師とは、病院で看護師として勤務している人ではなく、何らかの理由で就業していない助産師のことです。潜在助産師にとって、現役並の復職は、非常にハードルが高く、少しの研修での復職ではなく、復帰をサポートできる現場の助産師の支援体制が欠かせません。その意味でも、この施策が空白期間を埋める方策としての効果は、容易には期待できるものではありません。

 以上述べさせていただきましたように、現在までの議論の中で、執行部は、「助産師をいかに確保するかが大きな課題であり、それに向けて全力をあげて取り組みたい」と答弁されておりますが、その手法はあまりにも確実性がないことが多いことから、これから子どもを産もうとしている女性の期待に応えるものではない、と言わざるを得ません。 そもそも冒頭述べさせていただきました通り、助産師というものは単に「数を確保すればいい。」というものではございません。人間のはじまりに関わる非常に重要な職業であり、少子化の進む本県においては、特に能力の中身含め重要視されるべき課題ではないでしょうか。
 そういった意味では、今定例会に提出している条例案の成立によって、高知女子大学、高知大学養成者の定着状況の見定めができるまでの間、空白期間をつくらず、最低年間5名から7名の県内定着を見定めことができるものと思われます。

  まさに今そこにある潜在リスクを回避することができるかどうか、県議会に大きな決断が迫られているのではないでしょうか。「安全で安心、満足のいくお産」は本県県民全ての願いです。高知県の少子化を克服するためにも、子どもを産む安心を保障するためにも、助産師の安定した養成がなされるべきことを願い、この条例案に賛成の立場を表明し、同僚議員の賛同を心から御願い申し上げまして私の討論といたします。
ありがとうございました。