2024年09月定例会意見書賛成討論(10月11日)

  ただいま議題となりました議発第8号「刑事訴訟法の再審規定(再審法)」の改正を求める意見書議案について、県民の会を代表いたしまして、賛成の立場から討論させていただきます。
 9月26日、静岡地方裁判所は、1966年に勤務していた静岡県のみそ製造会社の専務家族4人を殺害したとして強盗殺人罪などに問われ、1968年に死刑判決を受けた袴田巌さんに再審無罪の判決を言い渡しました。
そして、逮捕から58年、死刑判決が確定してから44年、2023年10月の再審開始から15回の審理を経て出されたこの判決に対して、8日に検察当局が、控訴を断念し、88歳の袴田巖さんの無罪が確定しました。
 しかし、逮捕と死刑判決によって袴田さんが失った膨大な時間を取り戻すことはできず、拘置所で長年自由を奪われたことによって引き起こされた拘禁症とは今後も闘い続けることになります。
 日弁連は現在、数十の事件で再審請求を支援していますが、誤審によって奪われる権利を保護しない法律が、それらの事件での不正を正すための取り組みを妨げてはならず、日本の司法の下で起きたこのような過ちが繰り返されてはなりません。
 そのためにも、国におかれては、無実の者を冤罪から迅速に救済するためにも、「刑事訴訟法の再審規定(再審法)」の改正を行うことが求められているのです。
 その思いは、本年3月11日、設立時の入会議員数は超党派で134名に上る「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」の発足につながり、その後議連加入議員は308名にまでのぼっています。
 議連の会長には自民党の柴山衆議院議員、幹事長には立憲民主党の逢坂衆議院議員、事務局長には自民党の井出衆議院議員が就任し、最高顧問には麻生太郎氏、顧問には立憲民主党、公明党、日本維新の会、共産党、国民民主党、教育無償化を実現する会、社民党、れいわ新選組の各党党首が名を連ねるという、類を見ない大型の超党派議員連盟となっています。
 そこで、超党派議員連盟でも求められており、本意見書にもある改正すべき2点の根拠について述べます。
 一つは、証拠開示の問題です。
 多くの国民は裁判官がすべての証拠を吟味した上で有罪判決を書いていると思っていますが、そうではなく、捜査機関は税金と権力を使って集めた証拠から、自分たちの主張に有利な証拠だけを裁判所に提出します。
 そこには、自ずと民間人である弁護人の証拠収集力とは雲泥の差があります。
 そこで弁護人は、捜査機関の手の内に眠っている証拠の中にこそ被告人に有利な証拠があるだろうと証拠開示を求めるわけです。
 しかし、再審段階では証拠開示の「ルール」つまり条文がないために、その扱いについては、裁判官のやる気次第、裁判所のさじ加減ひとつというのが現状です。
証拠開示がどれほど重要かと言えば、たとえば袴田事件では、第1次再審(審理期間27年間)ではまったく開示されませんでしたが、第2次再審請求審で裁判所から証拠開示勧告が出され、約600点の証拠が開示されました。
 その結果、確定審で犯行着衣とされた5点の衣類について、弁護団の再現実験によってねつ造であったことが明らかになったのです。
 このように、再審において証拠開示は不可欠と言えます。
 次に、何とか証拠開示がされ、再審開始決定がされても、検察官による不服申立て、「抗告」がおこなわるという問題です。
 1979年に鹿児島県曽於郡大崎町で起こったとされる殺人・死体遺棄事件である大崎事件では3度の再審開始決定すべてに検察官が抗告したため、審理が長期化し、未だに再審が始まらないという異常事態になっています。
 再審が認められた20の事件についての最近の研究によれば、うち18件で検察側が抗告を行い、検察による抗告は不正を正す取り組みを妨げることとなっているのです。
 袴田事件も、「再審開始決定に検察官が抗告する」ことが審理の長期化を招き、再審開始決定以来9年かかりました。
 再審制度には2段階の手続きがあり、第1段階は裁判のやり直しを求める「再審請求」、第2段階がやり直しの裁判をする「再審公判」でありますが、検察官は有罪と思っていれば、再審公判でその主張をすればいいわけで、再審請求の段階で抗告を繰り返す必要はないのです。
 日本の再審法のルーツであるドイツでは、1964年に再審開始決定に対する検察官抗告を立法で禁止しているにも関わらず、我が国がその不条理を未だ温存する理由はありません。
 こうした現状を質すべき動きは、先ほど述べた国会議員レベルの大型の超党派議員連盟の結成であり、地方議会では今回のような再審法改正を求める意見書が、8月20日現在で、12道府県議会と323市町村議会で採択されているのです。
 この刑事訴訟法の再審規定の改正を求める声は、今再審開始を待つ冤罪被害者にとっては喫緊の課題です。
 事件から61年、仮出獄から30年、第三次再審請求から18年、三者協議は58回も行われてきた第三次再審闘争中の1963年5月に埼玉県狭山市で発生した女子高校生殺害事件において、石川一雄さんが犯人にデッチ上げられた冤罪事件、狭山事件があります。
 新証拠の多くは、取調べ録音テープや逮捕当日に石川さんが書いた上申書、あるいは手拭いの捜査報告書など、証拠開示によって第3次再審請求ではじめて明らかになった証拠資料にもとづくものでした。
 これまで縷々述べてきたように、検察官による再審開始決定への抗告が多くの事件の再審開始を不条理に長期化させてきたことからすれば、狭山事件で再審開始決定が出されても検察官が抗告したら、無罪実現までさらに何年もかかることになります。
 当時青年だった石川さんも現在85歳となっています。
 「再審法」改正は狭山事件をはじめとした冤罪に苦しむ無実の者にとっては、「開かずの扉」を開き「見えない手錠」を外させることにつながる重要な課題なのです。
 本意見書は、総務委員会では、不一致となりましたが、その後、検察当局が、控訴を断念し、袴田巌さんの無実が確定しました。
 多くのマスコミが、再審に関する法整備を求める世論が高まり、最高検も今回の再審請求の長期化について検証するといわれている中、制度改正への歩みを進めるべきではないかと問うています。
 議員の皆さんも、この間多くの報道や識者のコメントを目にされてきたことだと思います。
 刑事訴訟法の再審制度を巡る四囲の状況は大きく変化しつつあります。
 どうぞ、無実の者を冤罪から迅速に救済するために、「再審に際し捜査で集めた検察官の手持ち証拠を全面開示すること。」と「再審開始決定に対する検察官の不服申し立て(上訴)を禁止すること。」を求める、本意見書に対して議員各位の御賛同を心からお願いいたしまして、私の賛成討論とさせていただきます。